@ryoppippi

日本人を安売りしてる奴らへ

30 Mar 2026 ・ 26 min read ・


最初に​言っておく

この​記事には​嫉妬が​含まれている。​それは​認める。

でも​嫉妬が​あるからと​いって、​ここで​書く​ことが​間違っているわけじゃない。

友人のKeiさんが​「人生に​コントロールを、やはり​日本の​エンジニアは​海外に​行くべき」と​いう​記事を​書いている。​その​記事では​自分​(ryoppippi)の​ことを​「スタープレイヤーが​海外就職を​果たした例」と​して​紹介してくれている。​ありが​たい。

Keiさんの​言っている​ことは​正しい。​給料の​話を​するなら​海外、​特に​SFベースの​給与は​日本と​比較に​ならない。​俺も​その​恩恵を​受けている​一人だ。​海外に​行く​ことで​キャリアの​選択肢が​広がるのも​本当だ。

ただ、​この​記事で​言いたいのは​そこじゃない。

自分は​ryoppippi。ccusageと​いう​CLIツールの​作者で、​今は​SFの​スタートアップRorkで​AIエンジニアを​している。​ccusageは​今12,000スターを​超えた。​Findyが​主催する​技術系の​MeetUpに​行けば​「ccusage​使ってます!」と​声を​かけてくれる​人も​いる​(Findyでの​登壇記事は​こちら)。

それでも​日本の​X、​特に​AI系インフルエンサー周辺では、​日本人が​作った​ものと​同等、​あるいは​時には​それ以下の​プロダクトでも、​海外の​エンジニアの​ものと​して​紹介された​方が​大きく​扱われる​ことがある。

日本人を​安売りしてる​奴ら。​インフルエンサーや​メディアが​「欧米すごい、​日本ダメ」を​売り続けた​結果、​日本人​自身が​それを​信じるようになった。​この​構造に、​全部の​問題が​詰まっていると​思う。

余談だが、​この​記事を​書きながら​「ccusageって​強い​エンジニアの​例と​して​使っていいのか」と​自信が​なくなった。​12,000スターの​OSSを​作った​人間が、​それでも​俺を​例に​出すのを​ためらう。​これが​呪いだと​思う。​なぜ​こんな​話を​するかと​いうと、​過去の​自分に​見せたいからだ。​2024年に​無職に​なった​とき、​踏み出すまでに​半年かかった。​「どうせ海外は​強い​人たちの​場所」​「日本に​戻れば​easyに​仕事もらえる」と​思って​グダグダしていた。​その​話は別の​ブログに​書いた。

今年30に​なる​俺が、​あの​頃の​自分に​向けて​書いている。​「欧米すごい」で​飯を​食ってる​奴ら、​全員く​たばれ


日本の​エンジニアリングは​普通に​すごい

まず​ここを​はっきり​言いたい。

日本の​エンジニアリングの​品質は​高い。​テストを​書く。​設計を​詰める。​コードレビューが​機能している。​俺の​観察だけじゃなくて、​海外に​出た​日本人エンジニアが​口を​揃えて​言う​ことだ。​先日出演した海外キャリアログでも、​カナダで​働く​日本人エンジニアたちと​話したが、​みんな​同じ​ことを​言っていた。

Londonで​数週間だけ​ある​小さな​スタートアップを​手伝った​ことがある。​コードが​クソだった。​TDDも​していない、​品質管理も​ぐちゃぐちゃ。​AIに​丸投げ。​「素晴らしい」​React。​「海外の​エンジニアリング」に​持っていた​イメージが、​自分の​目の前で​崩れた​瞬間だった。

SFの​スピード感は​本物だ。​あの​iterationの​速さは​日本と​比較に​ならない。​ただ​コードの​品質で​言ったら、​日本は​全然​負けていない。​むしろ強い。

それなのに​「日本は​品質改善が​必要」みたいな​話ばっかり​流通してる。​意味わからん。


「海外すごい」で​飯を​食っている​人たちの​話

先に​断っておくと、​海外の​情報を​追う​こと​自体は​悪くない。​ただ​紹介の​しかたが​「日本には​何もない」​「海外だけが​正しい」って​空気を​ひたすら​再生産してるのが​問題だ。​海外の​情報を​日本語に​「輸入」する​ことで​価値を​作っている​アカウントが​いる。​「最新の​海外テックを​日本語で​お届け」的な​やつだ。

その​中には、​日本人の​海外コンプレックスを​食い​物に​しているように​見える​ものも​ある。​日本語​話者が​英語の​一次情報に​直接アクセスしにくい状況が​続く​限り、​「すごい海外の​情報を​翻訳してあげる」と​いう​ポジションに​価値が​生まれる。​日本人が​自信を​持ってしまったら、​彼らの​商売が​成り立たない。

だから​少なくとも​一部に​とっては、​「海外は​すごい」と​いう​空気を​維持する​こと自体が​商売に​なる。

別に​海外に​出る​ことを​否定したいわけじゃない。​給料の​話を​するなら​海外、​特に​SFベースの​環境は​選択肢と​して​十分​ありだ。​でも​それは​経済的な話であって、​「海外の​エンジニアリングが​すごいから​出る」と​いう​話とは​別だ。​海外は​別に​万能でも​聖地でもない。​ただの​別の​市場だ。

マスコミも​似た​構造を​持っている。​海外の​エンジニアが​作った​ものは​「革新的」と​して​扱われ、​日本人が​似た​ものを​作っても​「ニッチ」で​片付けられる​ことがある。

そして​ひどいのは、​どこに​行っても​詰めてくる​ことだ。

「日本の​エンジニアは​世界で​戦えない」と​言う。​でも​海外に​出ようと​すると​「英語も​できないのに​無謀」と​言う。​海外に​出たら​出たで​「海外に​逃げた」と​言う。​海外で​成果を​出しても​「それは​たまたま」と​言う。

これは​ダブルバインドだ。​どこに​行っても​詰められる​構造が​出来上がっている。​そして​この​構造を​維持する​ことで​得を​している​人た​ちがいる。​アホやん。​Rorkで​一緒に​働いている​仲間は、​ほとんどが​外から​やってきた​移民や​outsiderだ。​普通に​外から​来て、​普通に​すごい​ものを​作っている。​インド人が​ベイエリアに​行っても​「インドから​逃げた」とは​言われない。​日本人だけが​この​罠に​閉じ込められている。


呪いの​正体

俺も​呪いに​かかっていた。

学校で​いい​成績を​維持して、​ストレートで​大学を​卒業して、​いい​会社に​入る。​博士号も​取って、​スタートアップで​エグジットも​して、​財政的にも​アカデミア的にも​20代の​うちに​成功を​収める。​そういう​一本道を​信じて​疑わなかった。​ストレートな​人生の​レールから​外れる​ことが​怖かった。​今​思えば​完全に​呪いに​かかっていた。

この​呪いは​どこから​来るのか。​親、​周り、​そして​受験戦争だと​思っている。

日本の​受験システムは​「正解が​ある」​「レールが​ある」​「そこから​外れたら​負け」と​いう​感覚を、​かなり​強く​叩き込む。​偏差値、​志望校、​合格ライン。​全部に​正解が​ある。​そして​その​正解に​向かって​最適化する​ことが​「頑張る​こと」だと​教えられる。

問題は、​その​思考回路を​社会人に​なってからも​引きずりやすい​ことだ。​「エンジニアに​なるには​この​ロードマップ」​「キャリア戦略は​これ」​「海外で​働くには​この​手順」。​全部、​受験の​延長線上に​ある。​答えが​決まっている​試験に​最適化する​思考を、​そのまま​キャリアに​持ち込んでいる。

その​呪いが​初めて​解けたのは、​修士を​休学した​ときだった。​ストレートじゃなくなった​瞬間、​なぜか​楽に​なった。​「あ、​外れても​死なないんだ」と​わかった。

海外に​出て、​さらに​解けた。​ロンドンの​スタートアップの​コードが​クソだった​とき、​「あ、​正解なんて​どこにも​ないんだ」と​わかった。

英語も​同じだ。​「正しい​英語を​喋らないと​いけない」と​いう​思い込みが、​英語を​話すハードルを​無意味に​上げていた。​アメリカ英語が​「正しい​英語」と​して​刷り込まれた​結果、​喋る​たびに​採点される​感覚が​あった。​でも​brokenな​英語で​現場に​突っ込んで​みたら、​間違えても​誰も​気に​していなかった。​自分だけが​ビクビクしていた。​そも​そも​「ヨーロッパの​人は​英語喋れる」と​日本では​よく​言われるが、​実際に​一緒に​働いてみると​文法も​めちゃくちゃだし訛りも​強い​人が​普通に​いる。​でも​彼らは​気に​せず​喋るし、​意見も​ぶつける。​最初、​英語ネイティブの​同僚が​何か​言うと​それだけで​「正しそう」に​聞こえて、​反論するのに​妙に​勇気が​いった。​中身じゃなくて、​言語で​萎縮していた。​これも​呪いだ。

日本では​発音が​正しくないと​バカに​される、​文法を​間違えると​恥ずかしい、と​いう​空気が​ある。​学歴や​教育レベルを​持ち出して​人を​序列化する​風潮も​ある。​日本の​義務教育の​レベルは​世界的に​見ても​高いのに、​それを​誇る​どころか、​学歴だけを​取り上げて​上下を​つけたがる。​「正しさ」で​人を​殴る​文化が、​英語にも​技術にも​キャリアにも​染み出している。

イギリスで​就職活動を​した​とき、​誰も​自分の​大学名なんか​見なかった。​そも​そも​知らない。​ただの​日本の​大学だ。​見られたのは​何を​作ってきたか、​それだけだった。​日本では​大学名が​人の​価値を​決めるような​空気が​あるが、​外に​出たら​誰も​気に​していなかった。

ICUに​いた頃、​「欧米人みたいに​振る​舞わないと​いけない」​「ネイティブみたいな​英語じゃないと​いけない」と​言っていた​同級生が​何人か​いた。​結局​そいつらは​日本で​働いている。​俺は​brokenな​英語のまま​突っ込んで、​イギリスで​働いている。

これは​英語だけの​話じゃない。​「正しい​アメリカ人の​英語」を​正解と​して​叩き込まれると、​気づかないうちに​「欧米=正しい」と​いう​感覚が​染み込む。​それが​技術・プロダクト・キャリア観まで​広がっていく。​海外の​エンジニアが​作った​ものを​無条件に​すごいと​思ってしまう、​外資に​行った​人の​意見を​必要以上に​重く​受け取ってしまう、​SFで​働いてる​人に​萎縮してしまう。​全部​この​呪いの​延長線上に​ある。

受験勉強が​作った​「レールに​従え」と​いう​呪い、​英語教育が​作った​「欧米が​正解」と​いう​呪い。​これを​一個ずつアンラーニングしていく​ことが、​俺に​とっての​解放だった。

呪いを​解くのに、​特別な​ことは​必要ないと​思っている。​ただ​一歩​踏み込んで​みる​こと。​それだけで​「あ、​別に​大した​ことなかった」と​わかる​瞬間が​来る。


アンラーニング

俺の​キャリアは​ぐちゃぐちゃだ。​共同創業者、​フリーランス、​OSSデベロッパー、​AIエンジニア、​海外移住。​修士は​休学した。​日本の​「綺麗なルート」からは​とっくに​外れている。​でも​なんとか​なった。​と​いうか​そっちの​方が​面白かった。​ぐちゃぐちゃだったから​今が​ある。​一本道を​歩いていたら、​たぶん​今の​自分は​いない。

勉強するより​手を​動かすことにした。​俺のGitHubには​400以上の​リポジトリが​ある。​面白そうだと​思ったら​すぐ​作って​公開する、​それを​繰り返してきた。​ccusageも​そのうちの​一つだ。​Claude Codeの​トークン使用量を​可視化する​CLIツールで、​欲しくて​2時間で​作って​そのまま​公開した、​ただ​それだけだ。​キャリア戦略も、​monetise計画も、​何も​なかった。​たまたま​バズってしまった。

これは​偶然だ。​でも​偶然じゃないとも​思っている。​400回ガチャを​引き続けたから、​一回​当たった。​一生準備運動だけして​終わるより、とりあえず​公開する方が​ずっと​いい。​SNSで​よく​流れてくる​「フルスタックエンジニアに​なるには​この​技術が​必要」みたいな​投稿を​見る​たびに​思う。​いつまで​受験生の​思考回路なんだ、と。

フルスタックとかなんとかエンジニアになるにはこの技術わかってないといけないみたいな投稿めっちゃ流れてくるけど、お前らいつまで受験生の思考回路なんだよ 目の前の!課題を!解くの!スキルセットとかじゃないの!解くの! 一生準備運動だけして人生終わるぞ

Reply

目の前の​課題を​解くのが​エンジニアの​仕事で、​skill setを​揃える​ことが​目的じゃない。​一生準備運動だけして​人生終わるぞ。​そして​もっと​タチが​悪いのは、​この​受験脳を​食い​物に​して​エンジニア向けの​情報商材を​売っている​奴らだ。​「これを​学ばないと​置いていかれる」​「この​ロードマップに​従え」と​不安を​煽って、​教材や​コースを​売りつける。​受験勉強の​延長線上に​ある​「正解を​教えて​もらう」と​いう​思考回路に​つけ込んでいる。​誤解の​ないように​言っておくと、​留学や​海外就職の​ための​ビザの​手続きとか、​制度的に​必要な​情報を​提供している​人たちは​別だ。​ああいうのは​本当に​助かる。​そうじゃなくて、​エンジニアと​しての​スキルを​「これも​あれも​必要」と​不安を​煽って​商材に​している​連中の​話だ。

「正しい​キャリア」も​「正しい​エンジニア像」も​最初からなかった。​ccusageが​ここまで​跳ねるとは​思っていなかった。​何も​予測できないなら、​動き続ける​しかない。

日本だけじゃなく、​「上の​言うことに​従え」​「レールから​外れるな」と​いう​圧力は​色んな​場所に​ある。​親、​先生、​上司、​社会。​「お前には​できない」と​言われ続けて​育つ。​俺も​親から​散々​言われ続けた。​その声は​大人に​なっても​頭の​中に​残る。​でも​その声は、​自分の​可能性を​見ていた​言葉じゃなかった。​その​人たちには、​レールの​外側が​見えていなかっただけだ。


無視されてるだけだ

俺の​話ばかりしてしまったが、​本当に​言いたいのは​ここだ。

日本には​すごいOSSエンジニアが​たくさんいる。​世界水準で​戦っている​人た​ちが、​普通に​いる。​でも​その​事実は、​日本語コミュニティの​外側では​十分に​語られていないし、​内側ですら過小評価される​ことがある。Findytoyokumoのように​日本人エンジニアの​成果を​ちゃんと​評価してお金を​出してくれる​会社も​ある。​本当に​ありが​たい。​ただ全体と​して​見ると、​日本企業が​日本人エンジニアの​成果に​スポンサーするより、​海外発の​イベントや​プロダクトに​お金を​出す方が​多い。

実態を​一つ​話すと、​ccusageの​メンテナを​日本で​募集した​とき、​誰も​声を​かけてこなかった。​日本で​めっちゃ​使われてるのは​知っていた。​それでも​反応は​なかった。​一方で、​ccusageを​見て​「うちに​来ない?」と​hiringの​オファーを​くれたのは​全部​海外の​企業だった。​日本企業は​どっちもしなかった。

そして​海外の​企業が​自分を​雇ったのは、​自分が​日本人だからじゃない。​作った​ものを​見て​声を​かけてきた。​それだけだ。​なのに​日本では​「日本人なのに​海外の​スタートアップに​入れて​すごい」みたいな​文脈で​語られる​ことがある。​喜んでくれてるのは​わかる。​でも​その​「なのに」の​裏には、​「日本人は​普通ダメ」と​いう​前提が​透けている。​自分を​卑下する​呪いだ。

#ccusage をお使いの企業様へ【拡散希望】 今回日本に滞在して、予想以上に多くの企業様で #ccusage が使われている話を聞いて驚きました。ありがとうございます。 ジョークツールから始まった個人プロジェクトがここまで大きくなっていることに大きな喜びを感じています

Reply

ある​MeetUpで、​自費で​日本に​来て​ccusageの​発表を​した​直後に​「俺も​似たようなの​作ってるんだよね、​あ、​そう​いえば​今度MSの​社長が​登壇するから​見に​来てよ」と​言われた​こともある。​リスペクトが​ないなと​思った。

もちろん、​日本でも​声を​かけてくれた​人、​応援してくれた​人は​大勢いた。​大多数は​そうだった。​ただ​構造的な​話を​している。

一方、​Londonの​イベントでは​こういう​ことが​起きた。

日本人の​成果を​無視し続けて、​「日本からは​世界で​戦える​エンジニアが​生まれない」って​自分で​言った​ことを​自分で​本当に​してるだけだ。​ただの​マッチポンプだろ。


あの​頃の​自分へ

海外に​出る​こと、​レールから​外れる​こと、​その​ハードルに​気づいたら​外から​課されていたわけじゃなかった。​自分が​作り出していた​幻想だった。​そして​幻想は、​捨てられる。

受験戦争が​作った​「正解の​道を​歩く​思考」も、​英語教育が​作った​「欧米=正しい」と​いう​無意識も、​「海外すごい」で​飯を​食っている​人たちが​煽り続けた​恐怖も、​親や年上に​「お前には​できない」と​言われ続けた​声も、​全部​自分で​捨てられた。

brokenな​英語でも​仕事できた。​ぐちゃぐちゃな​キャリアでも、​綺麗なルートから​外れても、​なんとか​なった。​と​いうか​その方が​面白かった。​400回ガチャを​引き続けたから、​一回​当たった。

考えるより​動いて​よかった。​準備が​整ってからじゃなくて​よかった。​完璧じゃなくて​よかった。​とりあえず​作って、​とりあえず​応募して、とりあえず​喋ってみた。​行動した​先に​しか​見えない​景色が​あった。

応援してくれる​人の​存在には​気づいていた。​でも、​詰めてくる声の​方に​ばかり耳を​傾けていた。​そういう​人は​思ってるより​少ないし、​詰めてくる​声より、​ずっと​大事だった。


宣伝

3月31日​(火)​19:00から、tech_world18が​主催する​オンラインイベントに​登壇する。

一緒に​登壇するのは、​この​記事でも​紹介したKeiさん、​そして​Denoで​ソフトウェアエンジニアと​して​働くmaguroさん。

「海外エンジニアは​すごい」と​いう​話を​しに​行く​つもりは​全くない。​興味が​あれば​ぜひ!

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